広島県西部の内陸部、自然に囲まれたのどかな風景の中にウッドワン美術館はあります。
ウッドワン美術館が所在する広島県廿日市市は世界遺産に指定された厳島神社のイメージが強いですが、同市は瀬戸内海から北西へ伸び、西中国山地で山口県や島根県に接します。ウッドワン美術館は山口・島根の県境に近い山間部に位置しており、豊かな自然の中で美術鑑賞を楽しむことができます。
美術館の周辺
吉和インターを降りて美術館まで車で4~5分程度で美術館に着きます。
その道中の山々や畑、川がとても美しいです。
ウッドワン美術館概要
所在地:広島県廿日市市吉和4278
アクセス | 最寄駅無し。吉和SAまでの送迎バスあり→ウッドワン美術館HP |
料金 | 展覧会により異なる。要確認→ウッドワン美術館HP |
開館時間 | 10:00~17:00(入館は16:30まで) |
休館日 | 毎週月曜日、臨時休館日、冬季休館あり。要確認→ウッドワン美術館HP |
ウッドワン美術館は廿日市市に本社を置く株式会社ウッドワンが設立した公益財団法人ウッドワン美術館により運営されています。株式会社ウッドワンは大手の気質建材メーカーで原木のほとんどを自社林から供給しています。木材のメーカーが関わっているだけあって美術館やカフェ内は木々を活かした落ち着きのある雰囲気になっています。
所蔵作品紹介
フィンセント・ファン・ゴッホ作「農婦」
ゴッホと言えば「ひまわり」や「夜のカフェ・テラス」、「星月夜」といった色鮮やかな作品を想像しますが、ウッドワン美術館所蔵の「農婦」は画面が暗く「ひまわり」などと比べると色彩も控えめです。
実のところ、ゴッホの初期の作品は後期のアルル時代の作品と比べて画面が暗いことが特徴的です。
当作品「農婦」もゴッホの初期の作品の一点で、ゴッホがヌエネンにいたころに描かれたものです。
ちなみにヌエネンでの作品の多くはゴッホの母アンナが現地を去る際に木箱にまとめて現地の大工に預けられたと言われています(アンナはゴッホの作品に価値を見出していなかった)。ゴッホが有名になった後、アンナが返還を求めると作品は全て古物商にタダ同然で処分されてしまった後でした。当作品はおそらくその内の一点に当たると考えられます。
1880年(ゴッホ27歳)から絵画の修業を本格的に始めたゴッホは、バルビゾン派のジャン=フランソワ・ミレーに憧れ人物画を中心に描いていました。そして、ミレーがそうであったようにゴッホが人物画のモチーフとして心惹かれたのは「農民」でした。
絵画を始めて5年が経過した1885年、ゴッホはこれまで続けてきた人物画の集大成として「ジャガイモを食べる人々」を描くことを決意します。
ゴッホはその為には多くの人物素描や習作の作成が必要だと考え、近隣の農家に入り込んで人物画の制作に勤しみました。ゴッホの手紙によると50枚描くことを目標にしていたようです。
その内の一枚が本作「農婦」になります。
ゴッホは大作「ジャガイモを食べる人々」を描くうえで、その構成の意図について以下の様に言及しました。
「僕は、ランプの光の下で馬鈴薯を食べているこれらの人たちが、今皿に伸ばしているその手で土を掘ったのだということを強調しようと努めたのだ。だから、この絵は『手の労働』を語っているのであり、いかに彼らが正直に自分たちの糧を稼いだかを語っているのだ」1
絵描きになる前は宣教師を目指していたゴッホは、労働者や鉱夫など社会的に虐げられた人々の為に何かしてやりたいと思っていました。画家になってからもその気持ちは薄れることはなく、農民の生活をリアルに描くことで世間に訴えようとしていました。
ゴッホは後に精神疾患を患い「狂気の画家」と言われたりしますが、そのモチベーションは常に「誰か為」という奉仕の心で支えられていたのです。
本作「農婦」の日に焼けゴツゴツとした肌、深いしわなどからもゴッホの農婦への深い尊敬と愛情が見て取れます。
岸田劉生作「毛糸肩掛せる麗子肖像」
岸田劉生は1910年代、西洋画家のデューラーに影響を受けて繊細で写実的な肖像画を描いていました。
しかし、1920年代になってから劉生は細かい描写に飽きはじめ、日本画や宋元の味のあるデフォルメに惹かれるようになりました。1921年に描かれた国立博物館蔵の「麗子微笑」は頭部が横へ引き伸ばされ手が実物より小さく描かれていおり、意図的にデフォルメして描かれていることが分かります。その微笑はどこか仏像のようにおくゆかしく神秘的です。こうした東洋風の独特な形の表現を劉生は「デロリ」と呼んだことは有名です。
本作「毛糸肩掛せる麗子肖像」では1910年代の麗子像の面影を残しつつも新たな「麗子像」を模索している様子がうかがえます。劉生が単なる「写実である」ことから脱して自身の「写実性」を探っていく過程を読み取ることができる貴重な作品と言えるでしょう。
まとめ
ウッドワン美術館は広島県廿日市市の山奥にあり電車等の公共交通機関での行き来は難しいですが、自然に囲まれた環境でゆっくりと美術鑑賞をすることができました。
ウッドワン美術館の収蔵作品は藤田嗣治や青木繁、上村松園等の近代日本絵画や、エミール・ガレのガラス作品、マイセン磁器、薩摩焼など多様な美術作品で構成され、その数は合計約800点にのぼります。1度の展覧会では展示しきれないため、見たい作品があればホームページにて展示作品を確認するか問い合わせをする必要があります。
美術館に隣接する「カフェ・マイセン」では大き目の窓から外の自然を眺めることができ、美術鑑賞後に一息つくことができます。店内にはアンティークカップの展示があるためティーカップ好きのかたにはお勧めのカフェです。
休日のドライブにウッドワン美術館まで足を延ばしてみてはいかかでしょうか。
引用
- フィンセント・ファン・ゴッホ著 二見史郎(ほか)訳「ファン・ゴッホ書簡全集 第四巻」みすず書房 1984年10月22日発行改版第一刷、1161頁 ↩︎
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