足立美術館と横山大観。世界に誇る山陰の庭園美とその見どころ。

足立美術館

足立美術館は、山陰地方に位置する美術館で、日本屈指の庭園美術館として知られています。アメリカの日本庭園専門雑誌「The Journal of Japanese Gardening」の日本庭園ランキングでは、2003年から20年間連続で1位に選ばれています。

足立美術館がある島根県安来市という地名は、昔、スサノオノミコトがこの地を訪れた際に「吾が御心は安平(やす)けくなりぬ」と語ったことに由来していると伝えられています。地名が文献に登場したのは、天平6年(西暦733年)で、とても古くからある地名です。また、たたら製鉄が盛んな地であったことから、宮崎駿監督の「もののけ姫」の舞台のモデルにもなったことでも有名です。

足立美術館は自然に囲まれた場所にあり、近くに位置する勝山(16世紀半ばに、毛利元就と尼子義久が合戦した際に、毛利方が陣を構えた山)や京羅木山は庭園の背景の一部となってその美しさを引き立たせています。
目次

庭園

足立美術館は、安来市出身の実業家、足立全康氏によって1970年に創設されました。美術館の目玉である庭園は、足立氏の「庭園もまた一幅の絵画である」という理念に基づいて作られています。安来市の自然と一体となった庭園は、一つの美術作品として楽しむことができ、その美しさに感動することでしょう。

枯山水庭

庭園部の主庭となる「枯山水庭」は周囲の山々等の自然を借景しており、その広さ以上に雄大さを感じさせる庭園です。
庭園東部の滝は横山大観の「那智乃瀧」をイメージして造られた「亀鶴の滝」があります。

足立美術館 枯山水庭1
足立美術館 枯山水庭2
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苔庭

苔庭の赤松は全て斜めに植えられています。
その為か、白砂の白い部分が川に見えてきますね。

足立美術館 苔庭2
足立美術館 苔庭1
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生の額絵

手前の木がシルエットとなって、窓枠からの眺めがまるで絵の様です。

白砂青松庭

横山大観の「白沙青松」をイメージして造られました。
白砂の上にて点々と配置された松が印象的です。もっと近づいて見たいですね。

池庭

池の水は地下水を使っているため、池の中の鯉は冬場でも冬眠しないそうです。

足立美術館 池庭1
足立美術館 池庭2
足立美術館 池庭3
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横山大観作品

足立美術館の目玉は庭園でありますが、創設者・足立全康氏が収集したコレクションが館内にて展示されています。日本画をはじめ、彫刻や陶器等、その総数は約2,000点にのぼり、なかでも横山大観の作品は130点収蔵され質量ともに日本随一のコレクションと言われています。

今回は足立美術館蔵の横山大観作品を何点か紹介していきます。
(以下の作品は常設されているわけではありません。訪館する際にはホームページにて確認することをお勧めします。)→足立美術館ホームページ

「紅葉」(1931年) 

「紅葉」 右隻
「紅葉」左隻

「紅葉」は元々水墨と金泥で描かれる予定でしたが、大観が京都で良質の朱を見つけたため、急遽濃彩画(濃絵)に方針を変更したとされています。

この作品は二隻がセットで、高さ約160cm、幅約720cmと非常に大きなものです。その規模に加え、紅葉の赤と川の青色のコントラストが目を引きます。補色である赤と青の関係は、紅葉の一部に使われているオレンジや緑によってバランスが取られています。さらに、白金泥によって描かれた川のしぶきは、右側の余白部となり、右後方への空間の広がりを演出しています。この配置が鑑賞者の視線を左から右へと誘導し、鶺鴒(セキレイ)が飛び立つ瞬間を捉えさせます。
色合いや白金泥から豪華絢爛な印象を受けますが、同時に自然の雄大さの中にハッとした清々しさも感じさせる作品です。

「紅葉」(1931年) 六曲一双屏風 紙本彩色

「白沙青松」(1937年)

「白沙青松」(1937年)額装 絹本彩色

松は塩分耐性があり、風や乾燥にも強いため、他の植物が生えない海岸地帯でよく見られます。そのため、日本では白浜と青々と茂った松で構成される海岸を「白沙青松」(または「白砂青松」)と呼び、その白と青の対比の美しさを称えています。海外にも松は存在しますが、白浜に並ぶクロマツは日本特有の美しさを感じさせます。

松は内地を塩や風から守るために海岸沿いに植林されることもありましたが、大観の「白沙青松」に描かれた松は、その不規則に並ぶ様子から自然のままに残った松並木であることが想像できます。その野性味や風にあおられて斜めに生える様子から、美しさの中に松の力強さを感じさせる作品です。

「那智乃瀧」(1915年)

「那智乃瀧」(1915年) 軸装 絹本墨画淡彩

「那智乃瀧」は、庭園内の「亀鶴の滝」のモデルになった横山大観の作品で、個人的には足立美術館の絵画の中で一番印象に残る作品です。本作は和歌山県那智勝浦町にある、落差130mの那智滝がモデルとなっており、同滝は2004年に「紀伊山地の霊場と参拝道」の一部として世界遺産に登録されました。

墨の濃淡で表現された岸壁に一筋の滝が描かれたシンプルな構図です。靄によりおぼろげに見える木々の輪郭とは対照的に、滝の輪郭ははっきりと描かれており、神秘的な雰囲気と豪快な滝の勢いに圧倒されます。

実際の那智滝

まとめ

足立美術館は、横山大観の名作を多く所蔵していることから「大観美術館」と呼ばれるほどであり、美術館内には大観専用の展示室も設けられています。西洋画に比べ、日本画は少し硬派でとっつきにくいイメージがあるかもしれませんが、足立美術館で日本庭園を眺めながら横山大観をはじめとする日本画の作品を鑑賞すると、その魅力が自然に腑に落ちることでしょう。

大観の言葉には次のようなものがあります。

自然を観て、それを直ぐものにするという事はむづかしい。頭に一杯しまって置いて、何年か経って、自然の悪いところは消えて、いい印象ばかり頭に残る。その頭に残ったものを絵にすれば、前に観た自然と違うが、画家の個性がハッキリと出る。」

足立美術館学芸部編集「足立美術館大観選」公益財団法人足立美術館 2021年3月6日発行 138頁より

画家は絵を描く際に自然のままを描きがちです。これは良い意味で自然への敬意を示すものですが、大観によればそれは「眼で描く芸術」に過ぎません。「心で描く芸術」にするためには、「物象の性格と環境と雰囲気を研究し、その裏にひそむ物の性霊を表現する」ことが重要だと説きました。

この考え方は、写実性を追求しない日本画の理念と、なるべく手を加えず自然のままの景観を構成し、飾り気のない空間に洗練された美を見出すという日本庭園の特徴に通じます。足立美術館では、庭園と日本画を共に展示することで、双方が引き立て合うことを意図しています。

足立美術館は、日本一の庭園の質もさることながら、日本庭園と日本画を見比べながら日本的な美しさを探求できる点が最も魅力的です。展示には期間が設けられており、作品は入れ替えながら展示されます。時期によってはお目当ての絵が見られないこともありますが、季節により変化する日本庭園は訪れるたびに新しい発見があります。日本庭園や日本画に興味のある方は、ぜひ訪れてみてください。

足立美術館の基本情報

所在地:島根県安来市吉川町320

参考文献

・足立美術館学芸部編集「足立美術館大観選」公益財団法人足立美術館 2021年3月6日発行
・足立美術館編著 「ART GALLERY BOOKS 足立美術館」実業之日本社 1986年11月20日発行

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