【京都】細見美術館の魅力を紹介|若冲・琳派・建築美が堪能できる隠れ家スポット

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京都で「若冲」見るならココ!「琳派」もすごい!

京都・岡崎エリア、平安神宮のすぐ近くにある「細見美術館」
古美術から近代までを網羅するコレクションと、落ち着いた空間づくりで、訪れる人を静かに魅了する美術館です。

建物は少し変わった構造になっていて、1階から地下2階までが展示室。
地下には「サンクンガーデン」と呼ばれる吹き抜けの中庭があり、自然光と静寂が心地よく交差する空間です。建築そのものが、作品を引き立てるように計算されています。

コレクションの中核は「伊藤若冲」「琳派」

若冲については、初期の《雪中雄鶏図》から晩年作まで揃い、その画業の変遷を追える貴重なラインナップ。そして「琳派」に関しては、宗達・光悦といった始祖から、酒井道一や神坂雪佳といった近代まで幅広く網羅。質・量ともに圧倒的で、いつしか「琳派美術館」とも呼ばれるようになりました。

館内は決して広くはありませんが、その分、一点一点と丁寧に向き合える空間構成になっています。
地階には喫茶スペースにはカフェとレストランもあり、展示の余韻をゆっくりと味わえるのも魅力です。

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目次

細見美術館の主な所蔵品紹介

細見美術館のみどころは、やはり「若冲」「琳派」の作品。
その中から注目の作品を何点か紹介していきます。

美術館を訪れた際には是非参考にしてみてくださいね!

※所蔵作品は企画展にて一緒に展示されます。紹介する作品が全て展示されるわけではないので、美術館を訪れる際には公式ホームページ等を確認することをお勧めします。
細見美術館HP


伊藤 若冲(いとう じゃくちゅう)
《雪中雄鶏図(せっちゅうゆうけいず》(1747~1751年頃)

絹本着色、一幅、114.2×61.9cm
作品解説(クリックまたはタッチ)
伊藤 若冲(いとう じゃくちゅう、1716~1800)

細見美術館の推しの一点。若冲の“鶏(にわとり)”

伊藤若冲といえば「鶏(にわとり)」を連想することが多いかもしれません。
それくらい彼の作品には鶏がよく登場します。そして何より、構図も色彩も個性的で、今見てもハッとするようなインパクトがあります。

そんな“若冲の鶏”が、細見美術館にもあるんです。

しかもただの鶏ではありません。これは若冲が隠居する前、つまり本格的に絵に打ち込みはじめる前の、まだ模索していた時期の貴重な一枚。
それが本作、《雪中雄鶏図》です。

若冲が見出した、鶏というモチーフの魅力

「奇想の画家」と呼ばれる若冲ですが、初期は狩野派や宋元画の模写からスタートするなど、比較的オーソドックスな学びを経ています(いわゆる粉本主義ですね)。
しかし、それだけでは満足できなかった若冲は、やがて自分の画題を求めて、身近な動植物へと目を向けていきます。

中でも鶏は、身の回りで観察しやすく、羽毛の色彩や質感も美しい。若冲にとっては、理想的な画題だったのかもしれません。

この《雪中雄鶏図》にも、その“鶏愛”がしっかり表れています。

雪の積もる寒々しい竹林の中を、凛として歩く一羽の雄鶏。構図はシンプルですが、その静けさと力強さの対比が見事。
画面上部に広がる竹林の冷気と、下部の鶏の堂々とした存在感が、絶妙なコントラストを生み出しています。

羽の一本一本まで描かれた緻密な筆づかいも見どころ。ポーズは自然で違和感がなく、それでいてどこか気品すら漂わせています。まるで“孤高の武士”のような風格です。

ただの「家畜」じゃない。鶏に宿る深い意味

鶏と聞くと「家畜」のイメージが強いですが、実は古代中国ではもっと高貴な意味をもっていました。

『韓詩外伝』という書物には、鶏には「文・武・勇・仁・信」の“五徳”が備わっていると記されています。
そのため、古くから人格者の象徴とされてきたのです。

若冲がこれをどこまで意識していたのかはわかりません。
しかし、《雪中雄鶏図》の鶏を見ると、ただのモチーフ以上の思い入れが感じられます。そこには、若冲なりのまなざし——尊敬にも近い感情が込められていたのかもしれません。


ちなみに、同じ若冲の初期作品。しかも「鶏」を題材にした絵が、京都の福田美術館にも収蔵されています。
京都に来たついでに嵐山の「福田美術館」も覗いていってみてはいかかでしょうか。
「福田美術館」の記事はこちらから


伊藤若冲
《群鶏図(ぐんけいず)》(1796年頃)

紙本墨画、一幅
作品解説(クリックまたはタッチ)

彩色だけじゃない。若冲の“渋さ”が光る水墨画

こちらは、伊藤若冲の晩年に描かれた一作、《群鶏図》。
先ほど紹介した《雪中雄鶏図》のような彩色画とは打って変わって、渋みの効いた水墨画です。

「若冲=カラフル」というイメージを持つ方も多いと思いますが、実は水墨画もかなり面白い。
むしろ、色を使わないからこそ筆の冴えが際立ち、水墨ならではの緊張感や余白の美しさが際立ちます。

墨の線が生み出すスタイリッシュな構図

まず目を引くのは、画面全体を貫く流れるような構図。
とくに、S字を描くように画面を走る構成が印象的で、勢いのある筆づかいが生み出すリズム感が気持ちいい。

墨一色という制限を活かした鶏の尾羽の表現は、まるで書作品のよう。力強く、でも品があって、見た瞬間に目を奪われます。

また、彩色画に比べると、細かな描写はぐっと抑えめ。
しかし、それがかえって構図やポーズの魅力を際立たせています。ラフに見えて、実は必要な情報だけをスッと残している。そんな引き算の美学が光ります。

余計な装飾を削ぎ落とし、最小限の線と濃淡だけで鶏たちの存在感を立ち上がらせているところに、晩年の若冲の研ぎ澄まされた画力とセンスを感じます。


伊藤若冲
《糸瓜郡虫図(へちまぐんちゅうず)》(1753~1754年頃)

絹本着色、一幅、111.5×48.2cm
作品解説(クリックまたはタッチ)

糸瓜と虫たち。若冲のまなざしが宿る、身近な世界

身の回りの自然を愛し、絵に取り入れてきた若冲。動物だけでなく、植物も彼の大事なモチーフのひとつです。
この《糸瓜郡虫図》では、糸瓜(へちま)とそこに集う虫たちを通して、若冲が身近な自然に注いだやさしい眼差しを感じ取ることができます。

まず目を引くのが、画面いっぱいにのびる長〜い糸瓜。極端に細長く、ちょっと間の抜けた形が逆にかわいらしくて、どこかユーモラス。
直線的なそのフォルムが画面に独特のリズムを生み出していて、構図としてもとてもユニークです。

覗き込む“小さな世界”

葉の上や花の上をよく見ると、カマキリバッタ、蝶々など、さまざまな虫たちが丁寧に描き込まれています。
いずれも小さな生き物ですが、その存在感はしっかり主役級。虫たちがいることで、糸瓜の葉の上がまるでひとつの生態系のように感じられてきます。

静かな画面の中に、にぎやかな生命の気配。
近くでじっくり見ることで、若冲がどれだけ観察し、どれだけ愛情を込めて描いていたのかが見えてきます。

遠くから糸瓜の構図を楽しんだ後は、近くで虫たちを見つけてみましょう。
「おっ、ここにもいた」とつい声が出そうになる、そんな“鑑賞する楽しみ”にあふれた一枚です。

伊藤若冲 糸瓜
伊藤若冲 糸瓜郡虫図
伊藤若冲 糸瓜郡虫図
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酒井 抱一(さかい ほういつ)
《桜に小禽図(さくらにしょうきんず)》(1818~1828年頃)

絹本着色、一幅
作品解説(クリックまたはタッチ)
酒井抱一(さかい ほういつ、1761~1829)

「江戸琳派」の画家・酒井抱一

江戸琳派を代表する絵師、酒井抱一。
代表作といえば、やはりあの《夏秋草図屏風》。尾形光琳の《風神雷神図》の裏に描かれたことで知られています。

「琳派」といえば、金箔や装飾的なデザインが印象的ですが、江戸琳派の抱一はそれを独自のスタイルに昇華させました。
華やかさを保ちつつも、どこか写実的で繊細静けさと詩情がにじむ、独特の画風です。

東京国立博物館蔵《夏秋草図屏風》

“絵”と“詩”が心に沁みる一枚

この《桜に小禽図》も、そんな抱一の魅力がよく表れた一作。
《十二ヶ月花鳥図屏風》のうち「三月」にあたると考えられており、春を描いた場面です。

桜の幹に一羽の鳥がとまり、そのまわりにふんわりと咲く花々。
とりわけ目を引くのは、上へとまっすぐ伸びた幹が、途中で霞に包まれて消えているように描かれているところ。
そのスッと消えゆく幹と花からは、春の空気のやわらかさが伝わってくるようです。

画面左には、儒学者・亀田綾瀬による漢詩がそっと添えられています。

剪雲彫雪下瑶空綴向蒼柯翠葉 中晋代桃源何足問蓬山異卉是仙風

【現代語訳】
雲を切り取り、雪を彫ったような美しさが、玉のように澄んだ空から垂れ下がり、
青々とした枝葉に連なるように咲いている。

ここはまるで、晋の時代に語られた桃源郷の中にいるかのようだ。
ならば、仙人が住むという蓬莱山を探す必要などあるだろうか。
この珍しい花々こそ、まさしく仙境の風情そのものだ。

この詩をもとに抱一が筆を取ったのか、あるいは絵にあわせて詩が添えられたのか。
その順序は分かりません。
けれど、詩と絵がひとつの空気を共有しているのは間違いありません。
言葉と絵が静かに響き合い、見る人の心にじんわりと沁み込んでいきます。

幻想的な霞の中に浮かぶ桜。
「雲を切り、雪を彫ったよう」と形容された花の白さ。
その枝にとまる、一羽の青い小鳥。

どこかひんやりとした空気のなかに、たしかに感じられる春の気配。

この一枚には、日本画の魅力が凝縮されているように思います。
狩野派の筆法、琳派の装飾美、浮世絵にみられる大衆的な感覚——
それらすべてを受け継ぎ、自らの表現へと昇華した酒井抱一。
晩年に描かれたこの作品は、まさに江戸中期までの日本画を総括するような一枚といえるでしょう。


鈴木 其一(すずき きいつ)
《水辺家鴨図屏風(みずべあひるずびょうぶ)》

紙本金地著色、六曲一双、75.8×356.2cm
作品解説(クリックまたはタッチ)

酒井抱一の後継者。「江戸琳派」を継ぐ人物

鈴木其一(すずき きいつ・1795〜1858)は、「江戸琳派」の画家。
酒井抱一の弟子として知られ、のちにその後継者となった人物です。

代表作《夏秋渓流図》は、2020年に重要文化財に指定されたばかり。
金や青を多用した装飾的な画面構成は琳派らしい美しさを見せながら、葉の表現などには幾何学的なパターンも入り込み、どこかモダンな抽象性を感じさせます。

酒井抱一がさまざまな画風を「琳派」に統合したとすれば、其一はその幅をさらに広げ、琳派をぐっと現代的に展開した画家だと言えるでしょう。

根津美術館蔵《夏秋渓流図》

“日常感”を持ち込んだ「琳派」

そんな其一の個性がよく表れているのが、この《水辺家鴨図屏風》。

画面を横切るように並んだのは、水辺を目指してよちよち歩く一群のアヒルたち。
それぞれが微妙に違うポーズや表情を見せていて、見ているだけで自然と頬がゆるみます。

背景には、鋭くカーブを描く水辺の輪郭と、鮮やかな青の色面のみ。
この“弧”と“行進”だけで構成されたシンプルな構図が、逆にすごく大胆でおしゃれなんです。

そして注目したいのは、その主題。
描かれているのは神話の龍でも、荘厳な風神雷神でも、豪華な花や景色でもない。
ただ、歩いている鴨。しかも、かなり可愛い。

琳派といえば、豪華で優美な美術の世界という印象がありますが、其一はそこにちょっとしたユーモアと日常感を持ち込んできました。

鈴木 其一 水辺家鴨図屏風
鈴木 其一 水辺家鴨図屏風2
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琳派らしい装飾性のなかに、どこか“俗っぽい”愛嬌を感じさせるこの一枚。
金地に並ぶ白い鴨たちは、格式張った美術の枠を軽やかに飛び越えて、今を生きる私たちの感性にも響いてきます。

他の琳派作品と見比べながら鑑賞すると、其一のユニークさがより一層際立って感じられるはずです。
ぜひ、美術館で“行進する鴨たち”と向き合ってみてください。


酒井 道一(さかい どういつ)
《菊龍胆に小禽図(きくりんどうにしょうきんず》

絹本着色、一幅
作品解説(クリックまたはタッチ)

「雨華庵(うげあん)」を継ぐ「江戸琳派」の末裔

「江戸琳派」を確立した絵師・酒井抱一。
1809年、彼は現在の東京・根岸にアトリエ付きの住まいを構え、「雨華庵(うげあん)」と名付けました。この“雨華庵”という名前はやがて彼の雅号ともなり、琳派の後継者たちの拠点にもなっていきます。

抱一のもとには多くの弟子が集まりました。
鈴木其一や池田孤邨など、のちの琳派を支える画家たちもその中に名を連ねています。そして中には“雨華庵”の名を受け継ぎ、江戸琳派の流れを明治以降へとつなげていった者もいます。

その一人が、酒井道一(さかい・どういつ、1845–1913)。
雨華庵の四代目を継ぎ、明治10年の第1回内国勧業博覧会に出品したほか、明治天皇の御用品制作にも関わるなど、時代を超えて活躍した人物です。

維新後の「江戸琳派」

この《菊龍胆に小禽図》も、そうした明治期の注文制作のひとつと考えられています。
描かれているのは、白と黄の菊、青紫のリンドウ、そして二羽の小鳥。
どれも琳派の定番モチーフではありますが、道一はそこに明治らしい新しい息吹を吹き込みました。

まず目を引くのが、画面左からくねるように伸びていく菊の枝。
それに重なるように、空から舞い降りようとする一羽の小鳥。
そして地面では、もう一羽がじっと足元を見つめています。

静けさを保ったまま、わずかに動きのある構図。
ただ“美しい”だけではない、物語性のようなものが感じられるのが印象的です。

また、色づかいにも注目です。
白菊の清らかさ、黄色いリンドウの鮮やかさ。そこに差し込まれた赤や青が、画面全体を軽やかに引き締めています。
琳派の装飾性を受け継ぎつつ、どこか“モダン”な空気感も漂わせているのが、道一らしさと言えるかもしれません。

全体としては、先代・酒井抱一の《桜に小禽図》に通じる“詩情”を持ちながらも、構図や配色にはよりダイナミックな動きがある一枚。

静かな余白のなかに、確かに流れる時間があります。
ぜひ、その空気ごと、ゆっくり味わってみてください。



まとめ:日本美術ファンの隠れ家『細見美術館』

京都に来たら、やっぱり日本美術をじっくり見たい。
そんな願いにぴったり応えてくれるのが、この細見美術館です。

地下に広がる展示空間は、静かで落ち着いた雰囲気。
その中で、日本美術の真髄とも言えるコレクションが丁寧に紹介されています。

とくに見逃せないのが、「若冲」と「琳派」。
その質と量の圧倒的な充実ぶりには、ファンならずとも思わず唸るはず。
たとえ事前に名前を知らなくても、作品に触れるうちに、きっと惹き込まれていきます。

とはいえ、細見美術館は「伝統」だけではありません。
たとえば「春画展」のように、一歩踏み込んだ攻めの企画展も積極的に展開。
何度訪れても新しい発見がある、そんな柔軟さも魅力のひとつです。

京都に来た際は是非訪れてみてくださいね!


細見美術館の基本情報

所在地:京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6−3

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