新宿で出会うゴッホの「ひまわり」──SOMPO美術館という特別な場所

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新宿駅から歩いてすぐ。高層ビルが立ち並ぶエリアに、ちょっと意外な静けさを感じさせる空間があります。それが 「SOMPO美術館」。この美術館の名を聞いてピンとくる人も多いはず──そう、あのフィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」を所蔵していることで有名な場所です。

もともとは「東郷青児美術館」として知られていたこの美術館。1987年、なんと53億円という当時の破格の値段でゴッホの「ひまわり」を購入し、世間の注目を一気に集めました。

SOMPO美術館蔵
《ひまわり》
(1888年12月~1889年1月)

この「ひまわり」は、ゴッホが南フランス・アルルに滞在していた1888年から翌年にかけて描いたシリーズの一作。彼の中でもとりわけ象徴的な作品とされ、日本にある20点以上のゴッホ作品の中でも、“これぞゴッホ”という存在感を放っています。実は、アジアで「ひまわり」が常設展示されているのはここSOMPO美術館だけ。世界中のファンが訪れる理由がよくわかります。

でも、そもそもなぜ日本でゴッホ?と思う方もいるかもしれません。実はゴッホ本人、日本文化にかなり憧れていたんです。とくに浮世絵から大きな影響を受けていて、アルルの風景に“日本っぽさ”を感じたからこそ、あの土地でたくさんの絵を描いたと言われています。

そんな背景を知ってから見る「ひまわり」は、また違って見えるかもしれません。シンプルな線、パッと目を引く色彩──そこにどこか、日本的な感性が息づいている気がしてくるから不思議です。

ちなみにこの「ひまわり」、SOMPO美術館では常に展示されています。企画展を見終えたあと、最後に静かに立ち止まってゴッホの「ひまわり」と向き合う時間。それは、ちょっとだけ日常から離れた、贅沢なひとときです。

新宿の賑わいのすぐそばで、しんとした美術館の空気を味わいながら、あの名画と“対話”してみませんか?


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目次

《ひまわり》の紹介

油彩、カンヴァス、100.5×76.5cm

さて、SOMPO美術館の看板ともいえる作品、フィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》について、少し深掘りしてみましょう。

時は1888年。寒さ厳しい2月の終わり、ゴッホは南フランスのアルルへと向かいます。雪景色の広がるその土地に、彼は日本の絵画を重ね合わせて見ていました。

「雪の中で雪のように光った空をバックに白い山頂をみせた風景は、まるでもう日本人の画家たちが描いた冬の景色の様だった。」

フィンセント・ファン・ゴッホ著 二見史郎(ほか)訳「ファン・ゴッホ書簡全集 第四巻」みすず書房 1984年10月22日発行改版第一刷、1338頁

パリで浮世絵と出会い、その明快な線と色づかいに心を奪われたゴッホ。アルルの光と風景の中に、彼は“自分なりの日本”を見つけようとしていたのかもしれません。この頃から、ゴッホの絵はどんどん明るく、そして色彩豊かになっていきます。


アルルでの生活が本格化する中、ゴッホはポール・ゴーギャンと“黄色い家”での共同生活をスタートさせます。ゴーギャンの部屋に飾るために描いたのが、あの有名な《ひまわり》シリーズ。夏のあいだに集中して、4枚の「ひまわり」を仕上げました。

一方、SOMPO美術館に所蔵されている《ひまわり》は、それらの作品をベースにゴッホ自身が冬に描き直した“複製”作品のひとつです。夏に咲いていた花を、冬のアトリエで再びキャンバスに咲かせたわけです。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーにある《ひまわり》を手本にしながら描かれたこの一枚は、背景にやや青みがかった独特のトーン(照明によって少し見え方が違うのかもしれません)が加わっています。そのおかげで、花の黄色がより一層際立ち、画面全体がグッと引き締まった印象に。複製とはいえ、ただのコピーではなく、新たな表現としての「ひまわり」なんですね。

ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵
「ひまわり」1888年8月

ゴッホというと、感情に任せて絵筆をふるう天才肌の画家──そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。でも実際は、彼は色彩理論を学び、他の画家の技法を研究し、計画的に作品を重ねていた“理論派”の一面も持っていました。

同じモチーフを繰り返し描くのも、ただの練習や再現ではなく、色や構図、表現の可能性をじっくり探っていくための試み。そのプロセスの中で、ゴッホは“ゴッホらしい”スタイルをどんどん確立していったのです。

だからこそ、SOMPO美術館の《ひまわり》には、ゴッホの実験精神情熱の両方が凝縮されています。影響を受けた浮世絵、印象派、そして何より彼自身の目で見た世界。それらすべてが、この一枚の中に息づいているのです。



《ひまわり》だけじゃない。SOMPO美術館の見どころたち

SOMPO美術館といえばゴッホの《ひまわり》が主役ですが、実はそれだけじゃありません。
館内にはセザンヌ、ルノワール、ゴーギャンといったフランス近代絵画の巨匠たちの作品や、東郷青児をはじめとする日本の画家たちの作品も数多く所蔵されています。

※ゴッホの「ひまわり」は常に展示されていますが、そのほかの所蔵品は常に展示されているとは限りません。美術館を訪れる際にはHP等で確認することをお勧めします。SOMPO美術館HP

さて、ここからは、その中でも特に印象的な一作を何点かご紹介します。


リカート・ローラント・ホルスト
《「ファン・ゴッホ展」(1892年)カタログ表紙》(1892年)

リトグラフ、紙、17.5×21.0cm
作品解説(クリックまたはタッチ)

ゴッホが亡くなったあと、その才能を世に広めたのは、弟テオの妻であり義妹でもあったヨハンナ・ボンゲルでした。彼女はゴッホの絵と手紙を守り抜き、彼の名が忘れられないよう奔走します。

そんな彼女の努力が実を結んだのが、1892年12月のアムステルダムでの回顧展
この展覧会では、なんと油彩87点、素描25点が展示され、多くの来場者に深い感動を与えました。

展示を監修したのは、ヨハンナと親しかったリカート・ローラント・ホルスト。彼はこの展覧会のカタログ表紙のデザインも手がけており、本作《「ファン・ゴッホ展」(1892年)カタログ表紙》が、それにあたります。

リカート・ローラント・ホルスト(Richard Roland Holst, 1868–1938)

絵に描かれているのは、沈む夕陽の中で頭を垂れるヒマワリ。今にも力尽きそうなその姿に、どこか切なさが漂います。でも、地中にしっかり根を張るその姿と、ヒマワリの花に描かれた聖人のような光輪は、まさに“芸術に殉じたゴッホ”へのリスペクトそのもの。
静かな一枚の中に、ゴッホの人生の力強さと、死を悼む深い感情が詰まっているように感じます。

ちなみにこの作品は、リトグラフ(石版画)なので白黒なのですが、それがまた良いと思いませんか?
色がないからこそ伝わる余韻や静けさがあり、観る人の想像力を刺激します。


ポール・ゴーギャン
《アリスカンの並木路、アルル》(1888年10~11月)

油彩、カンヴァス、72.5×91.5cm
作品解説(クリックまたはタッチ)
現在のアリスカン

南フランス・アルルにある「アリスカン(Alyscamps)」は、もともと古代ローマ時代の大きな墓地だった場所。今では美しいポプラ並木と古い教会が立ち並ぶ、静かな散策路として観光客にも人気のスポットです。
20世紀後半には「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」として世界遺産にも登録され、その歴史的価値にも注目が集まりました。

1888年秋、このアリスカンの並木道を歩いていたふたりの画家がいました。ひとりはポール・ゴーギャン、もうひとりはもちろん、フィンセント・ファン・ゴッホ
ゴーギャンがアルルを訪れ、ゴッホの“黄色い家”で共同生活を始めてまもないころのことです。

ふたりは一緒にアリスカンを訪れ、それぞれがこの風景をキャンバスに残しました

ポール・ゴーギャン(Paul Gauguin,1848~1903)

SOMPO美術館が所蔵する《アリスカンの並木路、アルル》は、ゴーギャンがそのとき描いた2点のうちの1枚。
紅葉に染まった木々の赤や黄色が、空の青や石のグレーと混ざり合って、まるで夢の中の風景のような不思議な色彩バランスを生み出しています。

この色づかい、まさにゴーギャンらしさ全開。彼のシンボリックな画面作りが際立っています。写実というよりも、感じたことを強く打ち出すような、感覚優先のスタイル。その中に、遺跡の静けさや季節の移ろいが、見事に溶け込んでいます。

ちなみに、ゴッホもこの日に「アリスカン」を描いています。
同じ景色を、別の感性で描いたふたりの絵——
完成後は見せ合いながら、互いの作品について語り合ったのでしょう。

とはいえ、この共作の時期はごくわずか。ゴーギャンとゴッホの共同生活は、わずか2か月で破綻してしまいました。ですが、この作品には確かに、その短くも刺激的だった時間の名残が刻まれています。

一枚の絵から、ふたりの関係性や時代の空気まで伝わってくる──そんな奥行きのある作品です。

個人蔵 ファン・ゴッホ作
《アリスカン》(1888年)

ポール・セザンヌ
《りんごとナプキン》(1879~1880年)

油彩、カンヴァス、49.2×60.3cm
作品解説(クリックまたはタッチ)
ポール・セザンヌ(Paul Cézanne,1839~1906)

リンゴがテーブルに並んでいるだけの静かな静物画。でも、見れば見るほど不思議な存在感があります。
それがポール・セザンヌの《りんごとナプキン》。

ゴッホやゴーギャンと並んで「ポスト印象派」の中心人物とされるセザンヌは、印象派のやわらかく光にあふれた表現から出発しつつ、そこにとどまらなかった画家です。


1870年代の前半、セザンヌはカミーユ・ピサロと交流を持ち、その影響で画面は徐々に明るく、色彩も豊かになっていきました。
でも、彼が本当に目指したのは「光を描く」ことではなく、「モノの存在そのものを描くこと」

つまり、“見たまま”より、“成り立ち”に迫ろうとしたんですね。

この《りんごとナプキン》が描かれたのは、ちょうどその画風の転換期。
この作品、よく見ると、リンゴにもナプキンにも陰影はあるけど、写実的というよりは面で構成されたような立体感があります。
色の変化やハイライトも控えめで、むしろ形そのものを前に押し出してくるような力強さがあるんです。

それはある意味で“彫刻的な絵画”。
筆触を積み重ね、まるで積み木のように絵を「組み上げて」いく構築的なアプローチは、後のピカソやブラックらのキュビスムへとつながっていきます。


オーギュスト・ルノワール
《帽子の娘》(1910年)

油彩、カンヴァス
作品解説(クリックまたはタッチ)
オーギュスト・ルノワール(Auguste Renoir, 1841~1919)

人物画の名手として、数々の光と色彩の名作を残したオーギュスト・ルノワール。
彼の作品の中でも、特に愛されているのが女性像
本作もその流れにある作品で、モデルの女性は画面いっぱいにふっくらと描かれ、ほんの少しはにかんだような表情を浮かべています。

帽子に飾られた花やドレスの質感も、細かく描き込まれているわけではないのに、光の中でやわらかく溶けていくような印象を与えてくれます。
この「描きすぎない」のに「感じさせる」表現こそ、ルノワールの真骨頂。

そして注目すべきは、その絵筆さばき。
リウマチで関節は変形していたはずなのに、筆先からはまるでそんなことを感じさせないほど、軽やかで生命力に満ちたタッチが生まれています。

本作からは、病と闘いながらも「美しいものを描き続けたい」という、ルノワールの静かで強い意思が感じられる一方、どこか晴れやかで、やさしく包み込まれるようなこの一枚。
見ているこちらまで、ふっと肩の力が抜けるような気がしてきます。



まとめ「静かな感動に出会える場所、SOMPO美術館」

SOMPO美術館ミュージアムショップ

SOMPO美術館と聞いて、まず思い浮かぶのはやっぱりゴッホの《ひまわり》。それは間違いなくこの美術館の象徴であり、ここでしか出会えない特別な一枚です。

美術館では、年に4〜5回ほど企画展が開催されていて、その中で所蔵品が展示されることもあります。ただ、展示作品は企画展の内容によるので、お目当ての一作に出会えるかどうかはタイミング次第。
でも、ゴッホの《ひまわり》だけは別格。ほとんどの展覧会で、最後の展示室に登場するので、締めくくりとしてじっくり向き合うことができます。

新宿といえば、いつも人と音と光でにぎわう街。でも、そこから少しだけ歩いた先にあるこの美術館では、外の喧騒を忘れて、静かに作品と向き合う時間が流れています。

《ひまわり》に会いに行くのもいいし、気になる展覧会があれば、ふらっと立ち寄るのもいい。
SOMPO美術館は、美術を楽しむ場所であると同時に、心を整え、ゆっくり心を癒す場所でもあります。

ちょっと疲れた日や、何かインスピレーションがほしいときに、ぜひ訪れてみてください。

SOMPO美術館の基本情報

所在地:東京都新宿区西新宿1丁目26−1

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