SOMPO美術館について

SOMPO美術館は、画家フィンセント・ファン・ゴッホの代表作「ひまわり」を収蔵する美術館として広く知られています。
前身である東郷青児美術館は、1987年にゴッホの「ひまわり」を当時53億円という高額で購入したことで大きな話題を呼びました。この「ひまわり」は、ゴッホがアルルで制作したシリーズの一つで、彼の中でも特に象徴的な作品とされています。日本国内には現在20点以上のゴッホ作品が所蔵されていますが、彼の代名詞ともいえる「ひまわり」を所蔵するのはSOMPO美術館だけです。また、アジアで「ひまわり」を鑑賞できる唯一の美術館でもあり、国内外から注目を集めています。
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一見すると、日本とゴッホにはあまり関係がないように思われるかもしれません。しかし、ゴッホは浮世絵に強い影響を受け、日本文化に憧れを抱いていました。南仏アルルを訪れたのも、日本の風景に似たものを感じたからだとされています。そのため、アルルで描かれた「ひまわり」には、日本的な感性が宿っているともいえます。線描の簡潔さや鮮やかな色彩には、浮世絵から着想を得た要素を見出すことができるかもしれません。
SOMPO美術館ではゴッホの「ひまわり」を常に展示しており、企画展の締めくくりとして鑑賞することができます。
新宿の喧騒を少し離れ、静かで落ち着いた空間で「ひまわり」と鑑賞してみませんか?ゴッホのひまわりはあなたに特別なひとときを与えてくれるでしょう。
所蔵作品紹介
SOMPO美術館にはゴッホの「ひまわり」の他に、ゴーギャンやセザンヌ、ルノワールといったフランスの近代絵画をはじめ、東郷青児など日本画家の作品も多く所蔵しています。
今回はその中から何点か紹介していきます。
※ゴッホの「ひまわり」は常に展示されていますが、そのほかの所蔵品は常に展示されているとは限りません。美術館を訪れる際にはHP等で確認することをお勧めします。→SOMPO美術館HP
「作品解説」をクリック(またはタッチ)すると解説が開きます。
フィンセント・ファン・ゴッホ
「ひまわり」(1888~1889年)
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作品解説
1888年2月下旬、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh,1853~1890)は南仏アルルに到着しました。そこは雪が降り積もる冬景色が広がっており、彼はその風景に日本の絵画の面影を見出します。
「雪の中で雪のように光った空をバックに白い山頂をみせた風景は、まるでもう日本人の画家たちが描いた冬の景色の様だった。」
フィンセント・ファン・ゴッホ著 二見史郎(ほか)訳「ファン・ゴッホ書簡全集 第四巻」みすず書房 1984年10月22日発行改版第一刷、1338頁
パリで浮世絵に出会い、その明るく鮮やかな色彩に魅了されていたゴッホは、アルルの風景の中に日本の自然観を感じ取りました。この地で彼の画風は一層明るくなり、豊かな色彩表現が開花していきます。
アルルでは、黄色い家で画家のゴーギャンと共同生活を開始します。ゴッホはゴーギャンの寝室に「ひまわり」の絵を飾るため、夏の間にひまわりの絵を4点制作しました。
SOMPO美術館蔵の「ひまわり」はゴーギャンが黄色い家にやってきた後に描かれたものです。ゴッホは、ひまわりをモチーフとして気に入り、ひまわりが咲かない冬場にも、夏場に描いた作品をもとに「ひまわり」複製作品を3点描きました。本作品はその内の一点で、ロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている「ひまわり」をゴッホ自身が複製したものです。複製作品でありながら、背景の青みがかった色調が特徴的で、ひまわりの鮮やかな黄色をより際立たせる効果を生んでいます。

「ひまわり」1888年8月
ゴッホには、感情の赴くままに描いた画家というイメージがありますが、実際にはシャルル・ブランの色彩論を学び、ドラクロワやモンティセリといったロマン派画家の技法を研究するなど、理論的なアプローチを重視していました。一つのモチーフに繰り返し取り組むことは、単なる複製や模倣が目的ではなく、色彩や構図を試行錯誤するための創造的なプロセスでもあったのです。ひまわりを何度も描く中で、ゴッホは色彩の可能性を探り、自身の画風を深化させていきました。
SOMPO美術館蔵の「ひまわり」は、こうしたゴッホの探究心と芸術的な情熱を如実に物語る作品です。その色彩表現には、日本美術や印象派からの影響だけでなく、ゴッホ自身が切り拓いた独自の芸術観が鮮やかに投影されています。
リカート・ローラント・ホルスト
「『ファン・ゴッホ展』(1892年)カタログ表紙」(1892年)

作品解説
ゴッホの死後、義妹ヨハンナ・ボンゲルは、彼の名声を広めるため精力的に活動し、1892年12月にはアムステルダムでゴッホの大規模な回顧展を成功させました。この展覧会では、87点の油彩画と25点の素描が展示され、多くの観客に感銘を与えました。
この展覧会を監修したリカート・ローラント・ホルスト(Richard Roland Holst,1868~1938)は、ヨハンナと親交が深く、展示会の図録表紙のデザインも手掛けました。本作「『ファン・ゴッホ展』(1892年)カタログ表紙」が、それに当たります。
太陽が沈む中、暗闇にうなだれるヒマワリが印象的です。ヒマワリの花には聖人に見られる光輪が描かれており、芸術のために殉教したゴッホに対する敬意と哀悼の念が象徴されています。
ポール・ゴーギャン
「アリスカンの並木路、アルル」(1888年10~11月)

作品解説
南仏アルルにあるアリスカンは、古代から中世にかけて発展した大規模な墓地です。現在では、ポプラ並木やロマネスク様式のサン=トノラ教会がある遊歩道として知られ、アルルの観光名所の一つとなっています。また、20世紀後半には「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」として世界遺産に登録され、その歴史的価値が広く認識されています。
ポール・ゴーギャン(Paul Gauguin,1848~1903)が訪れた1888年当時、アリスカンは既に墓地としての機能を失っていましたが、その独特の風景は芸術家たちにとって魅力的なモチーフとなっていました。同年10月、ポール・ゴーギャンは南仏アルルに暮らすフィンセント・ファン・ゴッホを訪ね、黄色い家での共同生活を開始しました。それから間もない10月末、二人はアリスカンを訪れ、各々がその風景を描くことになります。

本作「アリスカンの並木路、アルル」は、その際に制作された2点のうちの一つです。紅葉に染まった木々が放つ鮮やかな赤と黄色の彩りが、空や建物、石棺の青や灰色と美しく調和しています。この色彩の組み合わせは、ゴーギャンの象徴的な色使いと画面構成力を如実に表しており、アルルの自然と遺跡が織りなす独特の雰囲気を見事に捉えています。
また、ゴッホもアリスカンの絵を描いており、二人が共に絵を描いたことがわかります。しかし、彼らの共同生活はわずか2か月で破綻してしまいました。本作は、短いながらも互いに影響を与え合った二人の芸術家が共に過ごした貴重な時間を物語る作品の一つであるといえるでしょう。
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「アリスカン」(1888年)
ポール・セザンヌ
「りんごとナプキン」(1879~1880年)

作品解説
ポール・セザンヌ(Paul Cézanne, 1839~1906)は、フィンセント・ファン・ゴッホやポール・ゴーギャンと並び、ポスト印象派を代表する画家として広く知られています。その画業は、印象派の技法を出発点としながらも、独自の絵画表現を探求し、近代美術の礎を築いたものです。
1870年代前半、セザンヌは印象派の画家カミーユ・ピサロと交流を深め、ピサロの影響により画風は明るく、色彩豊かなものへと変化しました。しかし、セザンヌは印象派の一時的な光の表現や形態の曖昧さに満足せず、1870年代後半には独自の表現を模索し始めます。
セザンヌが目指したのは、形態の確立と物体の存在感の強調です。彼は、物体を小さな色面の集合体として捉え、筆触を重ねることで構築的な画風を生み出しました。これにより、質感や光の移ろいを細密に描写することは控えられましたが、対象の構造や重厚感が際立つ表現を確立しました。
本作「りんごとナプキン」は、セザンヌの画風が変化していく過渡期に制作された作品です。この絵画に描かれたリンゴやナプキンは、硬質で彫刻的とも言える立体感を持ち、それぞれの形が力強く浮き上がっています。物体のハイライトや質感の詳細は意図的に抑えられていますが、それによって絵画全体に調和と静謐(せいひつ)な雰囲気が漂います。
セザンヌはその後、形態の歪みを強調したり、複数の視点から捉える描写方法を試みるなど、さらなる革新を続けました。彼の探求は、ピカソやブラックらによるキュビスムの誕生にも影響を与え、20世紀の美術に大きな道筋をつけたと言えます。
オーギュスト・ルノワール
「帽子の娘」(1910年)

作品解説
印象派の巨匠オーギュスト・ルノワール(Auguste Renoir, 1841~1919)は、光と色彩を巧みに操り、女性像を描いた画家として広く知られています。本作品「帽子の娘」は、彼の晩年の作であり、絵筆を持つことさえ困難だったリウマチとの闘病中に制作されました。
この作品では、明るく柔らかな色彩と、女性の健康的な肌の質感が見事に表現されています。ルノワールの特徴である軽やかな筆遣いは、彼の身体的な苦難を感じさせないほど自由で生き生きとしており、見る者に温かみと優雅さを伝えます。また、帽子に飾られた花や衣服の柔らかな表現には、光を浴びた空間の心地よさが感じられ、ルノワールが闘病中ながら、穏やかに描いたことが見て取れます。
SOMPO美術館の基本情報
所在地:東京都新宿区西新宿1丁目26−1
アクセス | JR新宿駅西口から徒歩5分 |
料金 | 展覧会により異なる→SOMPO美術館HP |
開館時間 | 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで) |
休館日 | 月曜日 展示替え期間 年末年始 |

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