
徳島・鳴門にある 「大塚国際美術館」は、ちょっと他にはない “体験型” の美術館です。
ここで展示されているのは、モネやダ・ヴィンチ、ゴッホなど、誰もが一度は見たことのある世界の名画たち。しかも、ただのレプリカじゃありません。高い耐久性を持つ「陶板」によって原寸大で再現されていて、その多くに実際に触れることができるんです。
展示されている作品は、なんと約1,000点。館内の鑑賞ルートは全長約4kmもあり、じっくり回るなら1日では足りないボリューム。訪問は日を分けての“連日鑑賞”が推奨されるレベルです。
ちなみにこの美術館、建物自体もかなりユニーク。山の斜面に埋め込まれるように建てられていて、入り口はなんと“地下”。というのも、ここは国立公園内。自然公園法で建物の高さ制限があるため、建物は地中へと広がる構造になっています。その結果、屋上が「1階」で、エントランスは「地下」という不思議な設計になっているんです。

館内マップ:時代を旅する構成

エントランスから41mの長~いエスカレーターを昇ると、そこはもう“地下3階”の展示エリア。そこから地上2階まで、作品は時代ごとにフロアを分けて並べられています。
地下3F 古代・中世エリア
内容は、システィーナ・ホールやスクロヴェーニ礼拝堂のほか、
ギリシャの壷絵、ポンペイの壁画、モザイク画、イコン、聖堂の壁画など。「陶板」なのに壁画の質感の再現がすごいです。
地下2F ルネサンス・バロックエリア
ルネサンス期の画家、ボッティチェリやダ・ヴィンチ
バロック期からはレンブラントやフェルメールなどまさに“西洋美術の黄金期”が鑑賞できます。
地下1F バロック・近代エリア
ロマン派のドラクロワ、バルビゾン派のミレー、
みんな大好きマネ、ルノワール、ゴッホなどの印象派の絵が鑑賞できます。知っている絵が多くてついつい足を止めてしまいます。
地上1F~2F 現代・テーマ展示エリア
「テーマ展示」では、「食卓の情景」や「空間表現」等の独自のテーマごとに展示されており、様々な時代の作品を見比べることができます。
【必見】空間まるごと再現!圧巻の「環境展示」
大塚国際美術館の中でも、ぜひ見逃さないでほしいのが「環境展示」。
これは、ただ絵を飾るだけじゃなくて、遺跡や礼拝堂といった建築空間ごとを原寸大で再現しているというもの。
壁画はもちろん、柱やアーチ、空間のスケール感まですべてリアルに再現されていて、「本当にここ、日本?」と錯覚するレベルです。
システィーナ・ホール(地下3階展示)
バチカンにあるシスティーナ礼拝堂を丸ごと再現したド迫力のホールです。
天井に広がる「天地創造」、壁に描かれた「最後の審判」など、ミケランジェロの傑作が360度のパノラマで体感できます。しかも全部陶板なので、劣化の心配なし。色あせない名画を、ほぼ永遠に楽しめるってすごくないですか。
ちなみにオリジナルの礼拝堂は、ローマ教皇ユリウス2世が1508年に天井画を依頼し、ミケランジェロが4年かけて完成させたもの。その後、1533年から約8年かけて壁面に「最後の審判」も追加されました。
現地では人混みや警備も厳しくて、じっくり鑑賞するのはなかなか大変。まず現地に行くのもなかなか難しいですよね。でもここなら簡単に行けて、静かな空間で存分に堪能できます。
スクロヴェーニ礼拝堂(地下3階展示)
青一色に包まれる神聖な空間——それがイタリア・パドヴァにある スクロヴェーニ礼拝堂。
この礼拝堂の内部を彩るのは、ジョット・ディ・ボンドーネが1300年代初頭に描いたフレスコ画。キリストの生涯を描いた連作は、西洋絵画史における“ルネサンス前夜”ともいえる重要な作品群です。
本来の礼拝堂では、1回25人・20分という見学制限がありますが、大塚国際美術館ならその制限なし!空いていれば何分でも、好きな角度から、好きなだけ眺めていられます。時間に追われない贅沢なアート体験がここにあります。
貝殻のヴィーナス(地下3階展示)

南イタリア・ポンペイの遺跡で発見された壁画「貝殻のヴィーナス」も見どころのひとつ。
ご存じの通り、ポンペイは西暦79年の火山噴火で街ごと火山灰に埋もれましたが、そのおかげで壁画やモザイク画が奇跡的に保存されました。
大塚国際美術館では、当時の遺跡展示の雰囲気を再現するために、この作品を 屋外の中庭に展示。青空の下、まるで本当に古代ローマの遺跡に紛れ込んだかのような不思議な体験ができます。

モネの「大睡蓮」(地下2階展示)
屋外展示でぜひチェックしてほしいのが、クロード・モネの 「大睡蓮」。
オリジナルは、パリのオランジュリー美術館にある巨大な壁面アートで、モネが晩年に情熱を注ぎ込んだ《大装飾画》です。
大塚国際美術館では、これを屋外に再現。なぜかというと、モネ自身が「自然光の中で展示してほしい」と望んでいたから。でも実際の油彩画を屋外に置くのは無理がありますよね。
そこで登場するのが、大塚国際美術館の十八番、陶板です。
劣化に強く、雨風にも耐えられる陶板だからこそ、モネの夢をかなえる展示が実現したというわけです。
自然光の中で刻々と表情を変える「睡蓮」は、屋内展示では味わえない臨場感。まさに陶板ならではの醍醐味です。
ちなみに展示スペースの周囲には池があり、本物の睡蓮も咲いています。見頃は6月中旬〜9月ごろ。絵と現実がシームレスにつながる空間は、まさに “生きている印象派”。
写真では伝わりきらないこの空気感、現地で体感する価値アリです。
陶板なのに“本物っぽい”理由 —— 職人技が光る再現力
大塚国際美術館を支えているのが、「陶板名画」と呼ばれる特別な技術。
この陶板、じつは 滋賀県にある大塚オーミ陶業株式会社で、一枚一枚丁寧に作られています。
陶板名画はこうして生まれる
まず、ベースとなる陶板に高精細の画像を転写して焼成。そのあと、印刷では表現しきれない色や質感を釉薬(ゆうやく)で加筆していきます。
でもここが難しいところ。釉薬って、焼いたあとに色が変わるんです。
だから、職人さんは「焼き上がったらこの色になるはず…」と予測しながら、見えない未来の色に向かって色を塗っているんです。まさに、陶器と絵画、両方のプロだからこそできる職人芸。
さらに驚くのは、釉薬の色数が約2万色ということ。光沢のある部分、マットな部分も忠実に再現されていて、「これ陶板なの?」と何度も疑ってしまう完成度です。
こうして何度も「加筆→焼成」の調整を繰り返し、やっと完成になるわけです。

筆触まで再現。ここまでやるのか…!

この作品はフィンセント・ファン・ゴッホによる《種をまく人》です。
ちょっと近くで見てみましょうか。
どうです?絵具で描いたような絵肌がみえるでしょう?
実は、陶板名画では画家の筆のタッチや、その質感まで再現されているんです。

しかし、実際には絵の具が盛られているわけではなくて、陶板の成形段階で凹凸をつけて再現しているんだそう。つまり、最初からゴッホの筆づかいを“立体的に再現する前提”で作られているということ。
これはもう、複製ではなくて「造形作品」と言ってもいいレベル。
さらに、館内に展示されている遺跡壁画では、時を経た壁のヒビや剥がれ具合まで、リアルに再現されています。ここまでやるか…という、執念すら感じるこだわりよう。
これは、美術館に行ってみて、実際に見て触ってもらうしかありません。
ぜひ陶板名画の凄さを感じてみてください!


まとめ:名画を未来へ——アートの入口として

今でこそ絵画は「芸術」として鑑賞されていますが、もともとは“記録”の役割が大きかったもの。
写真もビデオもなかった時代、人々は絵を通して宗教を知り、物語を知り、歴史を残してきました。
だからこそ、フレスコ画や油絵など、何百年も残せる技法が発展したわけですが、いくら耐久性があるとはいえ、時間の流れには勝てません。
劣化や盗掘で、色あせたり、壊れたり、元の姿を失った作品も少なくありません。
そうした“名画の命”を未来へつなぐために生まれたのが、陶板画の技術です。
1300℃の高温で約8時間焼かれた陶板は、2000年以上も色が変わらないと言われています。
そこに、約2万色の釉薬、筆触まで再現する立体的な成形技術——これらが組み合わさることで、大塚国際美術館の「陶板名画」が誕生しました。
そして、陶板名画はただの“レプリカ”にとどまりません。
色も質感も絵肌も、実物に限りなく近づけようという“執念”が、作品からにじみ出ています。
このこだわりの背景には、
「名画の真の姿を、未来にも残したい」
「後世への遺産として保存していきたい」
という美術館の強い思いがあるからなんです。
さらに、大塚国際美術館では絵を“空間ごと”体験できるのも大きな魅力。
たとえば、システィーナ礼拝堂やスクロヴェーニ礼拝堂。
本来は海を越えないと見られない名画空間が、原寸スケールで目の前に広がります。
しかも、静かな環境で、時間制限もなく、好きなだけ味わえる贅沢さ。
こんな“海外級の感動”を、国内で気軽に体験できるのは、まさにここだけです。
「美術館ってちょっと敷居が高そう」
「本物は見てみたいけど、海外はハードルが高い…」
そんな人にこそ、大塚国際美術館はぴったり。
アートの世界に一歩踏み出す“入口”としても、心を動かす体験としても、きっと忘れられない時間になるはずです。

大塚国際美術館の基本情報
所在:徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1
アクセス | JR鳴門駅からバスで約15分(その他のアクセス方法→大塚国際美術館ホームページ) |
料金 | 一般:\3,300 大学生:\2,200 小中高生:\550 |
開館時間 | 9:30~17:00 |
休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌日)、1月は連続休館あり、その他特別休館あり→大塚国際美術館ホームページ |
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