「しまなみ海道」はサイクリングロードとして世界的に有名です。
2014年にはCNNの「世界7大サイクリングルート(7 best bike routes in the world)」に選ばれています。
尾道→向島→因島→生口島→大三島→伯方島→大島→四国のルートで
自動車道(西瀬戸自動車道)は約60km、サイクリングロードは約70㎞に及びます。
筆者も何度かロードバイクで走ったことがありますが各島間の橋を渡るときは絶景です。自転車乗りの方には是非一度走ってみることをお勧めします。
さて、今回紹介する「平山郁夫美術館」と「耕三寺」ですが、この両方とも生口島にあります。
しまなみ海道を渡る休憩がてらに寄ってみるのもいいかも?
平山郁夫美術館
平山郁夫美術館所在地:広島県尾道市瀬戸田町沢200-2
アクセス | ・瀬戸田港より徒歩10分 ・生口島北ICより車で12分 ・生口島南ICより車で15分 |
料金 | 一般:\1,000 大学・高校生:\500 中学・小学生:\300 (団体割引あり。10名~それぞれ100円引き) |
開館時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
休館日 | 原則無休 |
「平山郁夫美術館」は日本画家・平山郁夫が生まれ育った尾道市瀬戸田町にある平山郁夫作品展示美術館です。
平山郁夫は1930年広島県豊田郡瀬戸田町に生まれ、旧制広島修道中学3年在学時、学徒動員されていた広島市にて原子爆弾の投下により被爆します。
1947年に東京美術学校(現・東京芸術大学)に入学し第2席で卒業。
1959年、東京芸術大学に副手として勤めていた際に原爆症の兆候が現れます。死の恐怖と対峙する中で、仏教に救いの道を見出した郁夫は仏教をテーマとした作品を描き始めます。
多くの仏教をテーマとした作品を描いた一方で、「文化財赤十字活動」を提唱しカンボジアのアンコールワット遺跡救済活動、バーミヤンの大仏保存事業に携わり文化財保護や文化の相互理解活動にも力を入れました。
その「文化財赤十字活動」のひとつに「敦煌の莫高窟」保存事業があります。
「敦煌の莫高窟」とは中国甘粛省敦煌市にある仏教遺跡です。
敦煌市東南の鳴沙山の麓に石窟があり4世紀から約1000年間かけて彫り続けられました。
その石窟の一つ「敦煌 莫高窟 第57窟」は唐時代の初期に作成されたもので、莫高窟で一番の美人菩薩が描かれていることで有名です。
その第57窟が東京芸術大学の「スーパークローン」技術で再現され平山郁夫美術館に展示されています。
「スーパークローン文化財」とは東京芸術大学が開発した高精度の文化財再現作品です。
オリジナルから3D計測し形を再現し、素材から絵具の成分まで分析、最後は人の手で着色するというデジタル技術と人の手技を合わせて作られるそうです。
完全なデジタル再現ではなく人の手が加わっていることで、よりリアルに再現できています(本物は見たことがありませんが…)。
↑光を遮った中、懐中電灯の光で観覧するというこだわり様。敦煌においても懐中電灯で照らしながら見るのでしょうね。
なお「スーパークローン文化財 敦煌 莫高窟 第57窟」は東京芸術大学が貸し出しているものらしく美術館所蔵ではないようです。目当てに行く際には美術館ホームページにてご確認ください。
その他、平山郁夫の学生時代の作品から仏教、シルクロードをテーマとした作品まで展示されています。
館内喫茶「オアシス」からは故・中島健作の庭園を観ながら休憩できます。
耕三寺
耕三寺の所在地:広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田553-2
アクセス | 平山郁夫美術館より徒歩3分程度 |
料金 | 大人:\1,400(¥1,200) 大学生・高校生:\1,000(¥800) 小・中学生以下:無料 ※括弧内は団体料金。団体割引は20名以上より |
開館時間 | 9:00~17:00(最終入館は閉館の30分前) |
休館日 | 年中無休 |
耕三寺は実業家「耕三寺耕三」により1936年に母親の菩提寺として創建された仏教寺院です。しかし、その規模は大きく、上中下の3段に10以上の建築物で構成されています。詳しくは→耕三寺ホームページ
また、仏像や書画等も所蔵しているため博物館としても楽しめます。
本堂
上段にある本堂です。京都の平等院鳳凰堂を模して造られています。
向かって左の翼廊内には「釈迦如来坐像(重要文化財)」が、右の翼廊内には巨大な観音像(名称不明)があります。
千佛洞地獄峡
本堂の隣には千佛洞地獄峡の洞窟があります。そこでは浄土教の祖である源信が書いた「往生要集」を視覚で体験できます。
「往生要集」の極楽往生に関する重要な文章を集めた仏教書です。「往生要集」は一心に念仏を唱えることで極楽往生ができると説いた一方で、地獄の恐ろしさについて生々しく記しました。日本に極楽と地獄の概念を広めた書物とされています。
「往生要集」によると地獄は8層に分かれており一番下に行くほどより重い責め苦を受けます。
第1地獄「等活地獄」には動物を殺したり、他人に残忍な行いをした人間が落ちるとされています。
罪人は、罪人同士の殺し合いをさせられる、鬼に全身を肉や魚のようにぶつ切りにされる、糞尿を食べさせられる、蛆虫に食べられる、大きな鉄の甕に入れられて煎られる・・・等々あらゆる拷問を受けるのだそうです。
その刑期については
人間世界の五十年が一昼夜にあたる四天王天は、その寿命が五百年である。この四天王天の寿命をもってするも、等活地獄の一昼夜にしかならぬ。しかも等活地獄の寿命は五百年である。
源信/川崎庸之・秋山虔・土田直鎮訳、往生要集 全現代語訳、講談社、2018年、14頁
と記されています。要するに人間界の50年が1日に相当する四天王天(仏法の守護神)の寿命500年を1日とする500年が等活地獄の刑期であるということなので、
50年×365×500×365×500=1,665,312,500,000年
人間界の時間だと1兆6653億12,50万年に当たります。
最下層の阿鼻地獄だと、なんと349京2413兆4400億年だそうです。途方もなさすぎますね。
耕三寺の「千佛洞地獄峡」では入り口から下り坂となっており、壁には「往生要集」の地獄を表す平面作品が展示してあります。
往生要集が書かれた平安時代後期は末法思想が流行った時期でもありました。当時は武士の台頭による治安の乱れもあり、末法思想とリンクして当時の人々の不安は非常に大きかったと想像できます。源信は往生要集にて地獄を生々しく書いた一方で、そこから救われるには念仏を唱えることが最も重要であると説きました。
[大門大八 念仏の証拠]
石上善應、往生要集 地獄のすがた・念仏の系譜、日本放送出版協会、1998年、204~205頁
問う、一切の善業は、おのおの利益ありて、おのおの往生を得。何が故に、ただ念仏の一門のみを勧むるや。
答う。今、念仏を勧むるは、これ余の種々の妙行を遮せんとするにはあらず。ただこれ、男女・貴賤、行住坐臥を簡ばず、時処諸縁を論ぜず、これを修するに難からず、乃至、臨終に往生を願い求むるに、その便宜を得ること、念仏にしかざればなり。
【意訳】
問い。一切のよい行為はおのおの利益があって、それぞれに往生することができる。それなのに、なぜに、ただ念仏だけを勧めるのか。
答え。いま念仏を勧めるのは、ほかのさまざまな、すぐれた行為を否定するのではない。ただ念仏は、男・女とか。貴・賊の区別もなく、立ち居振る舞いのすべてに関係なく、時や場所や条件などを問題にせず、その上これを実践するにあたって、むずかしいことが一切なく、さらに臨終には浄土に往生したいと願い求めても、その便宜を得るためには、念仏に及ぶものはないからである。
千佛洞地獄峡の地獄ゾーンから抜けると無数の石仏がある窟に出ます。
念仏を唱えながら極楽往生する様を表しているのでしょうか。暗がりにライトアップされた無数の石仏は圧巻ですが、得体のしれない怖さがあります。
恐怖を覚えるのは煩悩が強いからかもしれません。煩悩を払いながら階段を上ると出口となります。
おまけ
生口島ではタコが名物です。
平山郁夫美術館の近くにタコ焼き屋さんがあったので行ってみました。
おすすめは「タコ天(小)」(\650)とのことで注文。
注文ごとに揚げているらしく、7~8分ほど待てば揚げたてを食べられます。
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